遺言がない相続では、相続人が一人だけという例外を除き、相続人全員での遺産分割協議が必要になります。
最大のポイントは、全員が必ず協議して合意しないといけないということです。また、相続人全員ですから、そもそも相続人が誰なのかを誤っていた場合には、いくら文書を作っても無効になります。金融機関などでの手続きは一切進みません。
従って、以下は全くの誤りです。
相続には誤った知識が流布しています。これらは残念ながら「ちょっとした」誤りではありません。
・子供がおらず、ご主人の両親もすでに他界しているから、奥さんが一人で全財産を相続できる。
・相続人の「過半数」の合意で遺産を分けられる。
・奥さんもしくは長男に決定権がある。
・「過半の額をもらう人たち全員の」合意で、全てが分けられる。
・内縁が35年も続いたので、配偶者に準じて遺産がもらえる。
・全く音信不通の行方不明者は無視して遺産分割ができる。
書面を作らないと金融機関・不動産の財産移転はできません
上記の通り、相続人全員で協議をし、財産の分配について細かい部分まで合意が必要です。
単に口頭で合意するだけでは全く実務は進みません。書面を作成する必要があります。この書面の原本を金融機関(銀行)や法務局に提示しなければ、遺産の分配は一切できません。
法定相続人を立証する戸籍の束も必要になります。また、相続人全員の印鑑証明書が必要です(印鑑登録をしていない人は、この機会に登録が必要です。在日外国人すら同じ取り扱いです)。
また、金融機関および法務局は一言一句正確に問題ないかどうかを審査します。従って、誰が読んでも疑義のない文面にしなければ銀行の審査が通らないことになり、文面が十分な表現でなければ、「書き直さなければお金は払えません」ということが実際に起きます。
避けるべき文面集
あくまで例を挙げているものです。
・全財産をAに譲る。 : 家族構成にもよりますが遺留分を侵害しているかどうかがポイントです。様式が満たされていれば遺言自体は有効になる可能性が高いですが、他界後遺留分を侵害された相続人による請求が始まる可能性が高いです。
・群馬の土地は長男Aが相続する。:群馬のどの土地か不明。登記局での相続登記はこのままでは不可能なので、Aさんが登記を行うときに相当に苦労します。
・Y銀行の残高のうち200万円をBに相続させる。:Y銀行にいくつか支店が異なる口座がある場合、どの支店の残高の200万円をBが受け取るのかにつき、銀行との間で協議が必要になる可能性が高い。
・T銀行の残高の3分の1をCに相続させる。:1円単位の端数はどうしますかと銀行の間で協議する可能性が高い。
皆さんでの取り決めですから、故人の葬儀費用や香典返し費用、墓地埋葬費用、病院への医療費の支払いなど負債をどうするのか(すでに誰かが一旦立て替えているでしょう)、後でもらえる株式の配当金は誰が受け取るのか、遺産を分けるまでの不動産賃貸収入は誰が受け取るのか、といったことも盛り込む方が望ましいです。
故人の財産、生活などを総合的に考えて、銀行との間で面倒なことにならない、新たに作り直しがない、相続人間でまた議論しなくてよい、という文面を作成するためには、かなりの工夫が必要になります。
相続をしないという相続人について文書はいるのか
結論から言えば、必要です。なければ金融機関等での手続きは進みません。
ただし、「放棄」ではありません。「放棄」はあくまで家庭裁判所で「権利も義務も一切を」放棄する手続きであり、「相続をしない」という位置づけとは異なるからです。
文面には工夫が必要です。