山内みらい行政書士事務所
国際相続・遺言
相続とは一体何をしなければならないのか:遺言がないケース

相続とは一体何をしなければならないのか:遺言がないケース

遺言があるケースをご紹介しましたが、では遺言がないケースはどうなるのでしょうか。ある程度似ているが、プロセスは遺言があるケースに比べるとはるかに長くなります。

まず・・遺言がないか探す

まず、遺言が本当にないか、探して下さい。

遺品の中に本当にないか。貸金庫、仏壇、不動産権利証、銀行の通帳、昔の写真といった場所、とにかくありとあらゆる場所を探して下さい。

公正証書が公証役場に保管されていないか。(リンク先は神戸公証センターのご参考までの案内です)

この二つは確実に結論づける必要があります。なぜなら、遺言があった場合、この遺言の通りに実行する必要があるからです。遺産分割を行った後に、遺言が見つかった場合、原則としては、遺言の通りにやり直すのが法律の要請です。

相続人を正確に確定し、法律上の権利と義務を確認する

遺言がなかった場合の遺産は、まず法律上、誰がどういう権利と義務を有しているのでしょうか。

ここは非常に大切なところで、全ての出発点ですので、分量が多くなりますが以下説明します。

共通の考え方:

・配偶者は常に相続人となる。配偶者には内縁を含まない。内縁には一切法定相続に関する権利義務はありません。

・第1順位の相続人がいる場合、第2順位以下の直系尊属、兄弟姉妹は相続人とならない。

相続人相続分
第1順位の相続人配偶者(妻・夫)全遺産の1/2
故人の子全遺産の1/2
(対象の子全員合計で)
第2順位の相続人配偶者(妻・夫)全遺産の2/3
故人の直系尊属
(父母など)
全遺産の1/3
(対象の直系尊属全員合計で)
第3順位の相続人配偶者(妻・夫)全遺産の3/4
故人の兄弟姉妹全遺産の1/4
(対象の直系尊属全員合計で)

第1順位の相続人についての注記:

・配偶者が既に死亡している場合は、全遺産を子が相続する。

・子がすでに死亡しており孫がいる場合は、孫が代襲相続人となる。(ここで相続人は確定し、第2順位以下にはならない)

第2順位の相続人についての注記:

・第1順位の子や孫がいない場合のみ適用になる。

・配偶者が既に死亡している場合は、全遺産を直系尊属が相続する。(ここで相続人は確定し、第3順位にはならない)

第3順位の相続人についての注記:

・第1順位の子や孫、第2順位の直系尊属がともにいない場合に初めて適用になる。

・配偶者が既に死亡している場合は、全遺産を兄弟姉妹が相続する。

・兄弟姉妹が既に死亡している場合は、その子(甥姪)が代襲相続する。

上記に該当する人が誰もいない場合は、国庫に帰属します。持分を主張できる人は存在しません。

債務が多すぎるなどの理由により家庭裁判所で相続人が相続放棄をした場合は、その相続人はいなかったことになりますので、第1順位のケースが第2順位のケースになるなどして、相続人が全く変わることがあります。

子については、現配偶者との間の子のみならず、前の配偶者との間の子や、認知をした子も含まれます。

遺言で子の認知をすることも出来ます。子は第1順位ですから、その場合は認知された子が必ず権利を有する結果にもなります(割合は他の子と等分)。

相続人を正確に確定するための戸籍等を揃える(第1順位のケース)

最後の金融機関・不動産の手続で、以下の書類を全てもれなく準備する必要があります。例外はありませんのでご注意下さい。しかも本籍地などから取り寄せる戸籍謄本原本が必要で、コピーは不可です(但し法定相続情報一覧図を作成したら戸籍の代用として利用可)。

第1順位で確定する場合には、配偶者の特定と、子の特定が必要になります。

配偶者については、最終の戸籍で確認できます。なぜなら、日本では重婚はありませんから配偶者は必ず1人であり、故人と同じ戸籍に入っているからです。死別・離別理由を問わず過去の配偶者は相続人にはなりませんので、過去の配偶者は一切関係がありません。過去の配偶者との間の子は子として第1順位になります。内縁関係も、相続には関係がありません。

子の立証が難しくなってきます。

未婚の子であれば通常は故人と同じ戸籍に入っていますから、これは難しくありません。

既婚の子の場合は、新たに戸籍が作られて、故人の戸籍から抜けています。このため、既婚の子の戸籍を取る必要があります。夫婦で氏を変えた側は、相手側の本籍地に移りますので、本籍地の自治体が異なることになります。また最近は本籍を変えることが届け出制になりましたので、結婚後本籍の所在地が変わっているケースもあるでしょう。

なお子が離婚して独身となると親の戸籍に戻る場合があります。

この次は、故人の生まれた時からの戸籍を遡って取得し、子が他にいないかを確認することになります。

なお、この後の相続手続では、実務上相続人の住所地の立証も求められるので、相続人の「住民票の写し」(コンビニや市役所で取れるこれが正式名称です。「写し」と呼ばれますがいわゆるコピー機が印刷する「コピー」のことではありません)の取得も必要になります。これは住民票のある自治体なので、請求先が本籍地と違う場合は異なります。実際には相続人本人に取ってもらうのが現実的でしょう。

なお、再婚のケースで、配偶者の子(いわゆる連れ子)には、相続分はありません。もしも夫婦もしくは故人の養子としていた場合は、子と取り扱われます。兄弟姉妹のような半血による半分という考え方はありません。

相続人を正確に確定するための戸籍等を揃える(第2順位のケース)

第2順位ですから、まず、第1順位のケースに該当しないことを正確に立証する必要があります。

従って、第1順位の戸籍を全て準備した上で、第2順位の立証に進みます。

そもそも第1順位の戸籍を集めないと第2順位にいくことが判断できないはずである、という理屈を反映しています。

このケースでは故人の父母が生存しているケースですから、故人の父母が誰なのかがまずスタートです。これは既に第1順位で準備した戸籍で特定できているはずなので、難しくありません。父母は一義に決まります(養子を除く。複雑になるため、本コラムでは養子は一切触れません)。

次はこの父母(いずれか一方であっても)が生存していることの立証です。父母の現在の戸籍を取ります。

今後の手続を考えた時には住所地の立証も必要なので、第1順位で触れた通り、父母の「住民票の写し」の取得も必要になります。

なお、父母がいずれも生存していなかった場合であっても、そのさらに父母(祖父母)のいずれかが生存している場合には、この第2順位になります。対象は「直系尊属」ですので、世代が上であっても対象です。超高齢化社会であり、故人が若い場合には可能性があるでしょう。第3順位つまり兄弟姉妹に行かないことになります。

相続人を正確に確定するための戸籍等を揃える(第3順位のケース)

第3順位ですから、まず、第1順位のケースに該当しないこと、さらには第2順位のケースに該当しないこと、をこれまた正確に立証する必要があります。

従って、第1順位・第2順位の戸籍を全て準備した上で、第3順位の立証に進みます。

そもそも第1順位・第2順位の可能性がないとこの第3順位になることが判断できないはずである、という理屈を反映しています。

このケースになると集める戸籍はかなり数が増えます。

第3順位ということは兄弟姉妹が生きているか、生きているなら誰か、を立証することになります。そのためにはどうしたらよいのでしょうか。

兄弟姉妹は、共通の親が片親(半血)であっても、相続では権利があります(半血の人は他の兄弟姉妹の権利の半分)。

このため、このような手順になります。

・亡くなっている父親・母親について、生まれた時からの戸籍を取る。

・亡き父・母の子供が誰かを特定する(当然自分を含む)。

・これら兄弟姉妹について、生存していることを立証するため、全ての兄弟姉妹の戸籍を取得する。また手続で使用するため住民票も必要になる(戸籍の附票で通常代用可)。

・兄弟姉妹が死亡している場合、その子に代襲相続されるから、当該兄弟姉妹の生まれたときからの戸籍を取り、さらにその子を特定する(いない場合も同様の手順でないと立証ができない)。そしてそれらの子の戸籍を取得する。また手続で使用するため住民票も必要になることは同様です。

ここまでが相続人の特定のパートです。この部分は、一人でも間違えると、後の遺産分割協議が無効になります。というのは、相続人全員の合意が必ず必要だからです。

金融機関・法務局(不動産登記)では、遺産分割協議書はもちろん、全てこれらの戸籍を精査されます。従って金融機関・法務局には「戸籍の束」(専門家でもこういう言い方をします)が従前は持ち込まれました。

一方で、法務省により平成29年(2017年)5月より、法定相続情報一覧図というものを発行してもらえることになりました。これを作成すると、金融機関には原則としてこの法務局認証ずみの一覧図を提出するだけで「戸籍の束」の提出が必要なくなりました。この認証済みの一覧図を作成するには、もちろん法務局に「戸籍の束」を一旦出すことが必要ですが、最初のこのステップを終えると、これらの書類の情報が1枚の紙だけになり、法務局のいわゆる「お墨付き」をもらえるので、この後が楽になります。特に金融機関の手続きでは効果絶大で、彼らの審査のプロセスが劇的に短くなり、結果遺産配分のプロセスが早くなるので、相続人にとっても大きなメリットがあると言えます。

以上延々と長く説明することになりましたが、これはまだあくまで相続プロセスの「前提の確認」に過ぎません。実務上はこの戸籍の調査と並行して、遺産の調査を行います。 上記の通りシンプルなケースでは簡単に終わりますが、第3順位まで行く場合には戸籍の確認だけで数ヶ月要することが当たり前という世界です。知り合いの行政書士からは、この確定だけで1年以上かかった例を聞いています。

なお、例えば配偶者なし、子1名のみ、というケースでは、子が全てを遺産相続することが確定しますので、子が一人であることを立証すればよく、遺産分割協議書は不要です。

そして最大の山である遺産分割協議が待っています。