山内みらい行政書士事務所
国際相続・遺言
他人に保証をしているかも知れない

他人に保証をしているかも知れない

ここからは相続に伴うリスクについて触れていきます。

非常に悩ましい話です。

当事務所のご紹介 で触れましたが、相続とは何かを正確に理解頂く必要があります。

多くの方は相続はいわゆる「プラスの財産」を分けるものだという理解をされていることと思います。

しかし、法律上は違います。

「相続」とは、故人のプラスの財産もマイナスの財産も両方共にすっかり「まるごと」相続人に引き継がれる制度です。(なお、これと全く異なる考え方をする国もあります。アメリカの多くの州、英国、香港、オーストラリア、シンガポールなどがその例です)

言い換えれば、故人にお金を貸している人(銀行を含む)は、引き続き相続人に、お金を返してくれ、という権利を持っています。相続人は請求されたらお金を返済しなければなりません。

故人の借金は死亡によって「チャラ」には決してならない、のです。

次のコラムである借金が多い場合もご覧頂きたいと思いますが、より深刻になる可能性のあるのが、故人が他人に保証をしていたケースです。連帯保証がよく取り上げられます。

連帯保証とは、例えばある人Aが事業を行っていたとき、Aの事業にBが連帯保証をすると、Aが負った借金・負債を、債権者がAではなく、連帯保証をしたBに直接請求できる仕組みです。つまり債権者はBの財布をアテに出来るという言い方ができます。BはAに対して、債権者に返済した後に請求は確かに出来るのですが、そもそもAが十分な資産を持っていれば債権者はBに請求していません。つまりはAの返済が困難だからBに請求しているのが普通です。このため、BがAに請求しても、Aの財布がそもそももぬけのからで、結局Bの財布がなくなる、という結果になることが往々にして起きます。

故人に非常に仲の良い唯一無二の友人がいる、小さな事業を一緒にやっていた時期がある、などがヒントです。会社員であっても、ないわけではありません。

この保証は文字通り「紙切れ一枚」で行われます。

他人に渡った紙一枚で、故人が他界後忘れた頃に債権者から相続人に通知があり、この契約によりXXX円をYYY日までに支払ってくれという請求書がやってくるのです。

この保証の契約は人対人の契約であって、登記のように客観的に分かる制度は存在しません。従って、故人の遺品でこれが手がかりになるような情報がなければ、判明のしようがない、ことが多いのです。

故人の交友関係や、事業展開などを思い出し、こういう契約をしていた可能性があるのであれば、ありえそうな人には照会をかけるべきです。貸金庫や不動産登記簿などそれらしい場所は、真っ先に調べるべきです。

また、万一他界後に請求が来た場合には、契約が有効なのかどうかそもそも論で争う可能性が出てきます。金額も妥当なのかどうかの論点も、あります。今後の展開は紛争になることが高い確率で予想されますので、即座に弁護士の起用を考えるべきです。

紛争になった場合には弁護士法により行政書士他資格者は関与できなくなります。弁護士のみが関与できる領域だと思って下さい。

請求額が極めて多額の場合には、遺産分割どころではありません。相続人個人の財産が傷つきます。最悪は、想像しづらいとは思いますが、理屈上は相続人が自己破産という恐ろしい事態に発展もします。自分を守る行動が求められます。

なお、相続人が相続人であることを知って3ヶ月以内であれば、家庭裁判所に申述することで相続放棄をすることにより、プラスの財産もマイナスの財産(負債)もまとめて免れることが出来ます。この場合にはこの認められた人がそもそも相続人としていなかったことになります。ではその後、負債は誰が引き継ぐか。他の相続人が引き継ぐことになります。基本的には相続人全員が相続放棄した時に初めて債権者は回収が出来なくなります。

但し期限が問題で、この申述は3ヶ月以内と故人の死後の整理などをしている一般的な感覚では、非常に短いのが特徴です。

当然「法律」ですから、相手もこの期間のことを知っています。

相続人であることを知らなかったので期限を過ぎているが認めてくれという申述が認められることは、ほぼ困難、と思って下さい。債権者保護、つまり貸し手側の保護の考え方も、民法は持っているのです。

なおこの「放棄」という用語は、あくまで家庭裁判所で認められるプロセスを言います。「なにも遺産は要らない」という選択は放棄ではなく、「辞退」です。これはプラスの財産は辞退するが、マイナスのものは引き継がれるという効果になります。従って決して「放棄」ではありません。

故人の借金や負債から逃れるのはこの家庭裁判所の放棄のプロセスが必ず必要で、期間が短い、という認識が必要です。

3ヶ月が迫っている場合には即座にアクションを起こす必要があり、専門家に相談すべき。裁判所への申述も各種立証の資料準備が必要で、明日平日だから朝にでも裁判所に行けばなんとかなるだろう、というものではありません。

基本的には弁護士の起用をお勧めします。

ものすごく怖いことを記しました。多くの方には関係がないとは思われますが、やはり「リスク」は知っておくに越したことはありません。相続の専門家からのアドバイスです。