山内みらい行政書士事務所
国際相続・遺言
遺言の種類と書き方

遺言の種類と書き方

遺言の種類には、以下の3種類があります。

自筆証書遺言

文字通り、自分の字で書く遺言です。

秘密証書遺言

厳封をして公証役場で公証人に預ける遺言です。中身は公証人は見ません。このため内容が正しく書けているかは定かではありません。

公正証書遺言

遺言を公証役場で公証人に作成していただく遺言です。

以下は一般的な自筆証書遺言と公正証書遺言についてメリット・デメリットを記します。

自筆証書遺言のメリット・デメリット

メリット

・費用がかからない。

 自分で書くのですから費用がかかりません。

・自分でいつでもどのようにでも修正ができる。

 自分で書くのですから、これも当然のメリットといえます。

つまりは、気軽な様式だと言えます。文字通り今日にでもできることになります。

デメリット

・他界後に発見されるかわからない

 家族に存在を事前に開示していればまだしも、仏壇の中に入れたり、他の書類と一緒にあったりすると、家族が探せないリスクがあります。

 遺言書が日の目をみないまま、いずれ子供たちなど相続人たちで遺産分割協議、すなわち全員で話し合いを行うことになります。

 これが終わって財産が配分された後に発見されると、相続人の方は相当に処理に困ることになります。

・様式は実は厳格であり、有効な遺言を書くのがかなり難しい

 目録を除く遺言の全文、全て自筆が必要です。今はワープロ(ソフト)全盛の時代で、例えばA4のペーパー1枚を手書きされたこと、最近おありになりますか? (少なくとも私はありません) ご高齢の方に自筆という作業は、実は大変に負担です。 

 さらに、自筆署名と捺印が必要です。なお、財産目録はワープロ打ちでかまいませんが、全葉に署名と捺印が必要です。

 また正確に確定する日付の記載も必要です。「2022年6月吉日」は無効です。

 不動産については、相続の登記のため、地番・地目などの詳細を正確に記す必要があります。「群馬の土地を長男に譲る」だけでは、その後の登記で相当に苦労させられることになります。仮に家族の間で不動産がどの土地建物か自明であっても、登記局にそれを立証するのは、簡単な話ではありません。

 疑義を生まない内容を書くことも必要です。XX銀行の口座のうち500万円を次女に譲る、と書いたが、その後その口座は500万円ではなく300万円しかなかったとしたら、どう処理するでしょうか。

 意思を明確に遺し、その後の手続きをスムーズにするためのものですから、遺した後疑義が生じるような文面では意味がなくなってしまいます。

・子供など相続人が、この遺言は「本人の意思ではない」とか、「この日付の時には判断能力がなかったはずだ」と言い出し始めるリスクがある

 遺言は何らかの意思を持って財産の分割について書かれるものです。このため誰かに何かの財産が行く、ということを特定します。

 あげる側はあげているのだから文句は言わないだろうと思いがちですが、もらう方の気持ちは違います。自分以外の誰に何がどれだけ行くかを必ず知ることになるからです。

 つまり皆が納得する内容になるとは、必ずしもなりません。誰に現金がいくらいくから不公平だとか、誰にこの不動産が行くのはやり過ぎだとかいう話題が出始めます。仮に言わなくても、心の中が穏やかとは限りません。

 その時に有利もしくはより多くの財産をもらう人が、この遺言を書くときに故人と結託して書かせたのではないかという疑念を持つことがあります。

 また、晩年認知症などの状況になった場合、この日付の時にはすでに判断はできなかったはずだと誰かが言い出すこともあります。

 自筆証書遺言は気軽に書けるからこそ、こういう話が出やすくなります。

 さらに、あってはならないことですが、不利な内容となっている相続人の人が最初にこの遺言を見つけた時には、これを隠蔽することも考えられないわけではありません。黙っていればより有利な法定相続分をもらえることになると考えるのが普通の感覚でしょう。

 あげる方の10万円と、もらう方の10万円は違う・・ことがままあるのが、財産です。

・銀行の手続きの前に家庭裁判所で検認の手続きが必要

 裁判所で手続きが必要です。戸籍謄本などをそろえて申請しますので準備が必要です。申請後検認手続きまで時間がかかります。全ての相続人が家庭裁判所から呼び出しがあります。もちろん平日のみであり、都合をやりくりするだけでも大変です。ましてや場所は普通慣れない裁判所です。

公正証書遺言のメリット

デメリットから先に記します。

・公証役場への手数料他がかかる。

 公証人への手数料および立ち会う証人2名への日当が必要です。

 遺産の金額や配分の仕方、記す内容などで変わってきます。ただし、金額は公証役場によって違うということはありません。全国どこでも一律で、いわゆる「明朗会計」となります。

・事前に公証人との打ち合わせが必要である

 ふらりと公証役場に行って遺言を書くということは事実上不可能です。

 ご自身の戸籍謄本、相続人の戸籍、財産の一覧や不動産登記簿謄本などがまず必要ですし、文面もいろいろな工夫を要します。公証人の方々が種々アドバイスをくれますから、いろいろ考える必要があります。法律のプロでない限り、その場で考えをまとめ、公証人が空いている時間内に文面を決めきることは不可能です。一般的に公証人は非常にご多忙です。

 逆にこういった情報、しかも正確なもの、が、確実に遺産を特定の人に分配するため必要ということの裏返しでもあります。

 遺言を実際に書くと、いろいろな場面を想定して考え、それをきちんと文面に落とすことが必要です。

 実際に経験すると、遺言を書くというプロセスは「大いに迷うことだらけ」です。逆に言えば、「決めることがいっぱいある」ことを意味します。公正証書を作るときには、こういった内容をきちんと決めて書くことになります。

 とにかく、後の相続人が迷うことなく、スムーズに手続きができるようにする、ことが遺言を書く目的だからです。

メリット

・法律上プロの視点で書き上げることができる

 遺言はいつでも書き直せる、撤回できる、とは言え、多くの方が一度書いたら修正しないのが現実です。遺言を書く時には、すでに一定の高齢で、後にはそういった余裕がないことも背景にあります。

 例えばこの遺言を他界後に実際に手続きする人は誰でしょうか。遺言に書いていない場合、誰かがやることになります。普通はお子様など相続人の方になります。

 多く配分される方がたぶんやってくれるかな・・と思われると思いますが、実際に銀行の手続きなどをその方がやり始めると、少ない配分を受ける人はあまりいい気分はしないでしょう。

 遺言執行者という指定をしておくと、その方が原則として銀行などの手続きをすることになります。明快に定められますので、遺された方が迷うことがありません。

 例えばこういうことを遺言に含めるかどうかということも、この機会に考えておきたい内容です。通常公証人からは入れることを勧められます。

・公証役場で保管してくれ、相続人が全国どの公証役場でも有無の照会ができる

 遺言を作成した公証役場で無料で保管してくれます。

 また、公証役場は全国でネットワークでつながっており、他界後に相続人の方がもよりの公証役場に行くと、公正証書遺言の有無については、照会することができます(遺言書そのものは作成した公証役場での保管)。

 なお、銀行にこの手続きを頼むサービスがありますが、年間いくらという保管料を取られることが一般的なようです。

・家庭裁判所での検認の手続きがいらない

 自筆証書遺言で触れたこの手続きが不要です。相続人の方々の手続きが、非常に簡便です。

・判断能力などの疑念が基本的にない

 公証役場での作成時、公証人は遺言者に判断能力があるかにつき、一定のスキルを持って慎重に判断します。この点が最も重要な前提条件だからです。

 例えば晩年認知症だった故人につき、遺言書の作成時点で判断能力があったかについて、相続人たちに意見が出始め手続きがスムーズに行かなくなる・・という可能性は事実上ない、と思ってください。

 この点は非常に重要な点です。

 遺言を遺す動機の一つに、法定相続と異なる配分をしたいという思いがあることが多いからです。(関係者外への寄付なども含む)

こういった様々な理由から、遺言の形式は公正証書遺言であることを、弊職は強くお勧めしています。

手数料がかかるから手間がかかるからと尻込みされるかと思いますが、他界後の様々なトラブル、わだかまりを事前に防げます。

正直、「わずかな費用と手間であって、必要なものでしかない」と割り切ってしまうべきと、専門家として思います。